1なぜ「市場規模分析」を学ぶのか
市場規模分析とは:ある製品・サービス(本ガイドでは「業務システム」を主眼に置く)が対象とする市場の大きさを、金額・件数などの定量値で見積もる作業。「この事業は本当に成長投資に値する規模があるのか」「自社が獲得できる現実的な範囲はどこまでか」を数字で語れるようにする、事業企画・マーケティング・営業提案の共通言語。
市場規模分析が使われる場面
| 場面 | 問い | 使う人 |
|---|---|---|
| 新規事業の投資判断 | 「この事業に投資する価値があるほど市場は大きいか」 | 経営企画・事業開発 |
| プロダクト戦略 | 「どのセグメントに製品を最適化すべきか」 | プロダクトマネージャー |
| 営業提案・提案書 | 「この業務システムの導入によって、顧客はどれだけの市場機会を取りに行けるか」 | IT営業 |
| 投資家・社内向け説明 | 「なぜこの市場が有望なのか」を客観的根拠で示す | 経営層・IR |
| 競合分析・ポジショニング | 「自社・競合はこの市場の何%を取っているか」 | マーケティング |
「とある業務システム」の市場規模を考えるときの注意:業務システム(BSS・ERP・CRM・勤怠管理・経費精算など)の市場規模は、①ソフトウェアライセンス/SaaS利用料そのものの市場と、②導入・保守・カスタマイズを含むSI市場、③その業務システムを使う「顧客企業側の業界」の市場規模、の3つが混同されやすい。分析を始める前に「何を測るのか」を最初に定義することが最重要ステップになる。
2マーケティングの基礎理論 ── 市場規模分析の土台
市場規模分析は単独の技術ではなく、マーケティングの基本フレームワーク(3C分析・STP・4P)の一部として位置づけると精度が上がる。まず「市場をどう定義し、どう区切るか」という基礎を押さえる。
① 3C分析 ── 市場を捉える3つの視点
Customer(市場・顧客)
誰が・何を求めているか。市場規模・成長性・ニーズの変化。市場規模分析はここに位置する
Competitor(競合)
競合の数・シェア・強み弱み。市場規模の中で「誰がどれだけ取っているか」を把握する
Company(自社)
自社の強み・リソース・戦略。市場規模のうち「自社が現実的に取れる範囲」を見極める
市場規模分析(TAM/SAM/SOM)は、3Cの中でも「Customer=市場」を定量化する作業であり、SOM(自社が獲得できる範囲)を出す段階で「Company」の要素が入ってくる。
② STP ── 市場を「区切って」狙いを定める
Segmentation
市場細分化
市場細分化
市場を業種・企業規模・地域・利用目的等の切り口で分割する
Targeting
狙う市場の選定
狙う市場の選定
分割したセグメントのうち、自社が勝てる/魅力的なセグメントを選ぶ
Positioning
差別化ポジション
差別化ポジション
選んだセグメントの中で「競合と比べてどう優位に立つか」を定める
市場規模分析との関係:Segmentation(細分化)の切り口=そのままTAMをSAMへ絞り込む切り口になる。「どう区切るか」が市場規模の数字を大きく左右するため、STPの発想を先に持っておくと、市場規模分析のセグメント設計がぶれない。
③ 4P(マーケティングミックス) ── 参考知識として
| 要素 | 意味 | 業務システムの例 |
|---|---|---|
| Product(製品) | 何を提供するか | SaaS型勤怠管理システム/オンプレBSS基盤 |
| Price(価格) | いくらで提供するか | ユーザー数課金・従量課金・買い切りライセンス |
| Place(流通) | どう届けるか | 直販・代理店・SIer経由・マーケットプレイス |
| Promotion(販促) | どう認知させるか | 展示会・Web広告・導入事例・パートナー紹介 |
4Pは市場規模の「算出」には直接使わないが、Price(単価)はボトムアップ市場規模分析の必須インプットになる(後述)。市場規模分析=STPで市場を切り、Priceで単価を掛け合わせる作業、と理解すると全体像がつながる。
3市場規模の3層構造 ── TAM / SAM / SOM
市場規模は「一つの数字」ではなく、狙う範囲によって階層的に定義するのが定石。この3層(TAM・SAM・SOM)を区別せずに「市場規模は○兆円」とだけ語ると、実際に自社が取れる金額との乖離が大きくなり、説得力を失う。
TAM / SAM / SOM の同心円モデル
TAM
SAM
SOM
TAM(Total Addressable Market)=全体市場
理論上、その製品カテゴリが満たしうる需要の最大値。国・地域を問わず「そのニーズを持つ全ての顧客」を対象にした場合の市場規模
SAM(Serviceable Available Market)=有効市場
自社の事業モデル・提供地域・製品仕様で実際にアプローチ可能な範囲に絞った市場規模。TAMを「自社が売れる条件」でフィルタしたもの
SOM(Serviceable Obtainable Market)=獲得可能市場
競合状況・自社の営業リソース・ブランド力を踏まえ、現実的に一定期間内(1〜3年等)で獲得できると見込む市場規模
業務システムでの具体例(勤怠管理SaaSを想定)
| 階層 | 絞り込み条件の例 | 試算イメージ |
|---|---|---|
| TAM | 日本国内の従業員10名以上の全企業が勤怠管理システムを導入すると仮定 | 対象企業数 × 平均想定単価 |
| SAM | 自社が対応する「中堅・大企業向けクラウド型」に絞る(零細企業・オンプレ専業ニーズは除外) | TAMのうち自社製品仕様に合致する企業層のみ |
| SOM | 自社の営業体制・パートナー網・ブランド力で3年以内に獲得できる現実的シェアを想定(例:SAMの5〜10%) | SAM × 現実的獲得シェア |
使い分けの実務上のコツ:投資家・経営層への説明では「TAMの大きさ」で事業の将来性を語り、実行計画・売上目標では「SOM」を根拠にする。この2つを混同して「TAM=来期の売上目標」のように扱うと、非現実的な計画になる。
関連概念:SEM(Share of wallet)/PAM(Penetrated Available Market)
TAM/SAM/SOMに加えて、「顧客が実際にIT予算として使える金額の中でのシェア(Share of Wallet)」や、「現時点で既に自社・競合が獲得済みの市場=PAM」という概念も使われる。業務システムの提案では「顧客のIT予算のうちどれだけを本システムに振り向けられるか」という発想(Share of Wallet)が、SOM算出の現実的な裏付けになることが多い。
TAM/SAM/SOMに加えて、「顧客が実際にIT予算として使える金額の中でのシェア(Share of Wallet)」や、「現時点で既に自社・競合が獲得済みの市場=PAM」という概念も使われる。業務システムの提案では「顧客のIT予算のうちどれだけを本システムに振り向けられるか」という発想(Share of Wallet)が、SOM算出の現実的な裏付けになることが多い。
4市場規模の2大算出アプローチ
トップダウン vs ボトムアップ
| 観点 | トップダウン分析 | ボトムアップ分析 |
|---|---|---|
| 出発点 | 業界全体・マクロ統計(GDP・業界レポート)から始めて絞り込む | 個々の顧客・取引単価から積み上げる |
| 必要データ | 官公庁統計・調査会社レポート(矢野経済研究所・IDC・Gartner等) | 対象企業数・導入率・平均単価・自社実績 |
| 精度の特徴 | 大きな絵を素早く描けるが、粒度は粗い | 現実的な精度は高いが、前提データの収集に手間がかかる |
| 向いている場面 | 新規事業の初期検討・投資家向け説明・大まかな市場性の確認 | 営業目標設定・具体的な事業計画・SOM算出 |
| リスク | マクロ統計の定義が自社事業とズレていると数字が過大になりがち | 積み上げの前提(単価・対象数)が甘いと現実と乖離する |
実務での鉄則:両方のアプローチで算出し、数字がおおむね同じオーダー(桁)に収まるかを確認する「クロスチェック」を必ず行う。片方だけだと、算出ロジックの誤りに気づけない。
5トップダウン分析の実践手順
ステップ・バイ・ステップ
1
対象市場カテゴリを定義する:「業務システム」では広すぎるため、「勤怠管理SaaS市場」「BSS(顧客管理・課金基盤)市場」のように、既存の調査レポートで区分されている単位に合わせる
2
マクロ統計・調査レポートから市場規模の起点を取得:経済産業省・総務省の統計、または矢野経済研究所・IDC・Gartner・富士キメラ総研等の民間調査会社のレポート数値を起点にする
3
絞り込み条件(フィルタ)を定める:地域(国内限定か)・企業規模(中堅・大企業限定か)・提供形態(SaaSのみかオンプレ含むか)などの条件で、TAMからSAMへ絞り込む比率を設定する
4
成長率(CAGR)を確認・将来予測に反映:調査レポートに掲載されているCAGR(年平均成長率)を使い、3〜5年後の市場規模を予測する
5
自社の獲得可能シェアを掛けてSOMを算出:競合シェア・自社の過去実績・営業体制を踏まえ、現実的な獲得率(数%〜十数%が一般的)を設定する
市場規模(TAM) = マクロ統計の市場規模 × 対象範囲の絞り込み比率
例:国内ERP市場5,000億円 × 「中堅企業向けクラウド型」比率20% = SAM 1,000億円
トップダウン分析でよく使う成長率の考え方(CAGR)
CAGR = (期末値 ÷ 期首値)1/年数 − 1
調査レポートに「CAGR 8.5%(2024-2029)」のように記載されている場合、これは市場が毎年平均8.5%ずつ複利的に成長するという意味。単純な「5年で42.5%成長」ではない点に注意(複利計算のため実際は約1.085^5 ≒ 約50.6%成長)。
6ボトムアップ分析の実践手順
ステップ・バイ・ステップ
1
対象顧客の母数を数える:「業種×従業員規模×地域」等の切り口で、その業務システムを必要としうる企業・組織の数を特定する(総務省の経済センサス、帝国データバンク企業データベース等を利用)
2
導入率(普及率)を見積もる:対象顧客のうち、実際にそのカテゴリのシステムを導入している(またはこれから導入しうる)割合を推定する
3
平均単価を設定する:自社製品や競合製品の価格表・契約実績から、1顧客あたりの年間平均支払額(ACV:Annual Contract Value)を設定する
4
掛け合わせて算出:「対象顧客数 × 導入率 × 平均単価」で市場規模を積み上げる
5
セグメント別に分解して精度を上げる:企業規模帯(大企業/中堅/中小)ごとに単価も導入率も異なるため、セグメントごとに算出して合算する方が精度が高い
市場規模 = 対象顧客数 × 導入率(普及率) × 平均年間単価(ACV)
例:対象企業3万社 × 導入率40% × 平均単価150万円/年 = 市場規模 180億円
セグメント別ボトムアップの例(イメージ)
| 企業規模帯 | 対象企業数 | 導入率 | 平均単価/年 | 市場規模 |
|---|---|---|---|---|
| 大企業(従業員1,000名以上) | 3,000社 | 70% | 800万円 | 168億円 |
| 中堅企業(100〜999名) | 15,000社 | 45% | 200万円 | 135億円 |
| 中小企業(10〜99名) | 120,000社 | 15% | 40万円 | 72億円 |
| 合計(SAM) | 約375億円 | |||
企業規模帯を分けずに単純平均で計算すると、大企業と中小企業の単価差(このケースで20倍)が均されてしまい、実態と大きく乖離する。セグメント分解は面倒でも精度への影響が最も大きいステップ。
7市場規模分析に使える主要データソース
公的統計(無料・信頼性が高い・粒度は粗め)
| データソース | 使える情報 |
|---|---|
| 総務省「経済センサス」 | 業種別・企業規模別の事業所数・従業員数。対象顧客数(母数)の算出に有用 |
| 経済産業省「特定サービス産業実態調査」「情報通信業基本調査」 | 情報サービス業・ソフトウェア業の売上規模・企業数の推移 |
| 内閣府「国民経済計算(GDP統計)」 | 産業別GDP構成。マクロな市場規模の裏付けに(関連レポート:日本の産業別GDP推移) |
| 総務省「情報通信白書」 | ICT市場・DX投資動向の定性・定量データ |
| World Bank / IMF統計 | 海外展開を検討する際の国別マクロ経済指標(関連レポート:世界主要国GDP推移) |
民間調査会社レポート(有料が多い・業界特化で精度が高い)
| 調査会社 | 特徴 |
|---|---|
| 矢野経済研究所 | 国内市場に強い。ITシステム・SaaS・業界別市場規模レポートが豊富。IT営業の提案書でも引用しやすい |
| 富士キメラ総研 | 国内IT市場・エレクトロニクス市場に強み。「〇〇市場の現状と将来展望」シリーズが有名 |
| IDC Japan | グローバル系。クラウド・ソフトウェア市場のシェア・予測データに強い |
| Gartner | グローバルIT市場予測の代表格。Magic QuadrantによるベンダーポジショニングとTAM試算を併用 |
| ITR(アイ・ティ・アール) | 国内ITベンダーのシェア・市場規模を独自調査。ベンダー別シェアの比較に強い |
データソースを使うときの注意:調査会社ごとに「市場の定義」が異なる(例:SaaS市場にオンプレ保守売上を含むか等)ため、複数社のレポートを単純合算・比較しない。必ず各レポートの「調査範囲・定義」の脚注を確認する。
8実践ケーススタディ①:とある業務システムの市場規模を試算する
ここでは架空の「中堅・大企業向け経費精算システム市場」を題材に、トップダウンとボトムアップを実際に組み立てる流れを示す。数値は説明用の仮置きであり、実案件では必ず一次データで置き換えること。
Step1:市場の定義を決める
「経費精算システム市場」を、①国内、②従業員100名以上の企業、③クラウド(SaaS)型、④年間契約ベース、と定義する。オンプレ型・海外市場・スポット導入は対象外とする。
Step2:トップダウンで当たりをつける
| 項目 | 数値(仮) | 出所 |
|---|---|---|
| 国内 経費精算関連ソフトウェア市場(全体) | 約450億円 | 民間調査会社レポート(仮) |
| うちクラウド(SaaS)型比率 | 約75% | 同レポートの提供形態別内訳 |
| SAM(クラウド型・国内) | 約340億円 | 450億円 × 75% |
Step3:ボトムアップで検証する
| 企業規模帯 | 対象企業数 | クラウド導入率 | 平均単価/年 | 市場規模 |
|---|---|---|---|---|
| 従業員1,000名以上 | 4,500社 | 55% | 600万円 | 約148.5億円 |
| 従業員300〜999名 | 18,000社 | 35% | 150万円 | 約94.5億円 |
| 従業員100〜299名 | 52,000社 | 20% | 50万円 | 約52億円 |
| 合計 | 約295億円 | |||
クロスチェック:トップダウン約340億円 vs ボトムアップ約295億円。同じ桁(数百億円オーダー)に収まっており、大きな前提誤りはなさそうと判断できる。両者の差(約45億円)は「導入率の見積もり誤差」や「定義の微妙なズレ」として説明できる範囲。
Step4:SOM(自社が獲得できる範囲)を出す
SOM = SAM(約300〜340億円) × 自社の現実的獲得シェア(例:3年で5%)
獲得シェアの根拠は「勘」ではなく、①競合の数とシェア分布(寡占市場か群雄割拠市場か)、②自社の営業体制・パートナー網の規模、③既存の類似製品での過去実績、の3点から積み上げて説明できるようにする。「なぜ5%なのか」を問われて答えられることが重要。
Step5:成長性を加味した将来予測
調査レポートのCAGR(例:年率9%)を用いて3年後・5年後のSAMを予測し、「市場は拡大基調にあるため、今参入する意義がある」あるいは「成熟市場のためシェア争奪戦になる」といった打ち手の方向性を導く。市場規模の"今の数字"だけでなく"伸び方"を語れると提案の説得力が増す。
9実践ケーススタディ②:中小規模通信事業者(既存4社除く)のBSS市場 分析ロジック
本セクションは実数値を入れる前の「分析ロジックのテンプレート」。数値は総務省統計・IR資料・調査レポート等の一次情報を確認したうえで別途埋める前提とし、ここでは対象範囲の定義/セグメント設計/算出式/データ収集チェックリストのみを整理する。
Step1:対象範囲の定義
| 区分 | 内容 |
|---|---|
| 除外 | NTTドコモ・KDDI(au)・ソフトバンク・楽天モバイルの4社(MNO本体) |
| 要検討 | UQ mobile/Y!mobile/povo/LINEMO等のサブブランド。BSSは親MNOのシステムを流用するケースが多く、独立市場として数えるかどうかを最初に決める(本テンプレートでは除外扱いを推奨) |
| 含む | MVNO(大手系・中堅・小規模)、電力系・地域固定系通信事業者(エネコム・STNet・QTnet・OTNet等) |
Step2:セグメント設計(事業者タイプ × 顧客タイプの2軸マトリクス)
| B2C(個人向け) | B2B(法人向け) | |
|---|---|---|
| ① MVNO系(モバイル) | 象限1:mineo・IIJmio・NUROモバイル等の個人向けSIM。契約数は多いが低ARPU。BSSはリアルタイム課金(OCS相当)・大量アカウントのセルフサービス対応が必須 | 象限2:法人/IoT向けMVNO(通信モジュール、POS端末、法人格安SIM)。契約数は少ないが1契約あたりの価値は高め。BSSは複数回線の一括請求・API連携が中心 |
| ② 電力系・地域固定系 | 象限3:QTnetのBBIQ等、コンシューマー向け光回線。BSSは固定回線の契約・請求・工事オーダー管理型 | 象限4:エネコム・STNet・OTNet等の法人専用線・データセンター事業。BSSというより契約ごとのカスタムSLA・見積〜請求プロセス管理に近い(一般的な業務パッケージに近い場合あり) |
象限4は「通信キャリア向けBSS(Amdocs/Netcracker系)」ではなく「法人向け請求・契約管理システム」に該当する可能性がある。市場を「通信事業者向けBSSベンダーの売上」で見るか「請求・契約管理機能を提供する全ベンダーの売上」で見るかで、含めるベンダーの範囲が変わる点に注意。
Step3:算出式テンプレート(象限ごとのボトムアップ)
象限別BSS市場規模 = 対象事業者数 × 1事業者あたり年間BSS投資・運用費
「1事業者あたりBSS投資・運用費」が不明な場合は、以下いずれかのプロキシで代替する
プロキシ①:売上高ベース
1事業者あたりBSS費用 ≈ 通信事業収入 × 業界平均のIT/BSS投資比率(数%程度、調査レポートで確認)
1事業者あたりBSS費用 ≈ 通信事業収入 × 業界平均のIT/BSS投資比率(数%程度、調査レポートで確認)
プロキシ②:契約数ベース
1事業者あたりBSS費用 ≈ 契約者数(回線数) × 1契約あたりBSS運用単価(MVNEの月額利用料等から逆算)
1事業者あたりBSS費用 ≈ 契約者数(回線数) × 1契約あたりBSS運用単価(MVNEの月額利用料等から逆算)
全体市場規模 = 象限1〜4の合計。ただし小規模MVNOはMVNEへのフルアウトソースが多いため、象限1・2の一部は「事業者自身のBSS投資」ではなく「MVNEへの支払い(BSSサービス利用料)」として計上する方が実態に近い。
Step4:データ収集チェックリスト(会社で明日集める情報)
1
総務省「電気通信事業者一覧」:MVNO・電力系・地域固定系の届出事業者数(母数)を数える
2
総務省「電気通信サービスの契約数及びシェアに関する状況」:MVNO契約数・シェア推移
3
各社IR・有価証券報告書:通信事業収入、セグメント情報にB2B/B2C売上比率の記載があれば取得
4
矢野経済研究所/ICT総研のMVNO市場調査レポート:市場規模・BSS/OSS投資動向の数値(有償)
5
MVNEベンダー(IIJ・NTTコム・OPTAGE等)のIR資料:MVNO事業支援サービスの売上高(象限1・2の裏付け・クロスチェック用)
6
業界のIT/BSS投資比率のベンチマーク:コンサル・調査レポートから通信事業収入に対する平均投資比率を取得(プロキシ①用)
Step5:クロスチェックの考え方
象限1〜4のボトムアップ合算値と、MVNEベンダー数社の「BSS/事業支援サービス」売上高の合計を突き合わせる。大きく乖離する場合は、①対象事業者数の見積もり誤り、②プロキシ単価の設定誤り、③象限4(法人専用線)の定義範囲、のいずれかを見直す。
10市場規模分析でよくある誤り
算出プロセスの誤り
①市場の定義が曖昧なまま計算を始める
「業務システム市場」のように広すぎる定義のまま数字を出すと、後から誰も検証できない数字になる。最初に対象範囲(地域・企業規模・提供形態)を明文化する。
「業務システム市場」のように広すぎる定義のまま数字を出すと、後から誰も検証できない数字になる。最初に対象範囲(地域・企業規模・提供形態)を明文化する。
②TAM=来期の売上目標にしてしまう
TAMは理論上の最大値であり、実現可能性を一切考慮していない。事業計画にはSOMを使う。
TAMは理論上の最大値であり、実現可能性を一切考慮していない。事業計画にはSOMを使う。
③単一のソースだけで結論を出す
1つの調査レポートやトップダウンのみで完結させると、定義のズレや誤りに気づけない。必ず複数ソース・複数アプローチでクロスチェックする。
1つの調査レポートやトップダウンのみで完結させると、定義のズレや誤りに気づけない。必ず複数ソース・複数アプローチでクロスチェックする。
数字の使い方の誤り
④名目値と実質値を混同する
物価上昇・為替変動を含む「名目」市場規模と、それらを除いた「実質」成長率を混ぜて語ると、成長性を過大・過小評価しやすい(参考:GDP名目・実質の考え方)。
物価上昇・為替変動を含む「名目」市場規模と、それらを除いた「実質」成長率を混ぜて語ると、成長性を過大・過小評価しやすい(参考:GDP名目・実質の考え方)。
⑤CAGRを単純な年数倍で計算してしまう
「CAGR8%×5年=40%成長」は誤り。複利計算(1.08^5 ≒ 1.469、約46.9%成長)が正しい。
「CAGR8%×5年=40%成長」は誤り。複利計算(1.08^5 ≒ 1.469、約46.9%成長)が正しい。
⑥ドル建て等、通貨換算の影響を見落とす
海外市場をドル建てで見る場合、為替変動そのものが「市場拡大」に見えることがある点に注意(参考:為替変動と名目GDPの関係)。
海外市場をドル建てで見る場合、為替変動そのものが「市場拡大」に見えることがある点に注意(参考:為替変動と名目GDPの関係)。
11IT営業としての活かし方
市場規模分析を商談・提案に活かす
- 顧客への提案書に「対象市場はTAM◯◯億円、当社はそのうちSAM◯◯億円を狙う」と示せると、経営層に刺さる「戦略ストーリー」になる
- 顧客自身の事業(例:楽天モバイルの非通信事業)の市場規模を分析して見せることで、「顧客のビジネスを理解した上での提案」という信頼を獲得できる
- トップダウン(調査会社レポートの引用)は提案書の説得力補強に、ボトムアップ(顧客社内の対象部門数×単価)は個別提案の規模感の裏付けに、それぞれ使い分ける
- 「市場が伸びているか・成熟しているか」で提案の切り口を変える。成長市場なら「先行者利益」、成熟市場なら「リプレース・シェア奪取」を軸にする
- 社内の事業計画・投資判断でも同じロジックが使われるため、営業自身がTAM/SAM/SOMを説明できると、事業部門・経営企画との会話がスムーズになる
商談で使える切り口の例
「御社が展開されている◯◯事業の対象市場をトップダウンで試算すると、TAMは約◯◯億円、現在の御社シェアから逆算するとまだ◯◯%程度の獲得余地があります。この本業務システムの導入は、まさにその獲得余地を取りにいくための基盤になります」
「本システムのカテゴリ市場は年率◯%で成長しており、競合各社も投資を強めています。今のタイミングで導入することが、後発でのリプレースコストを避ける意味でも合理的です」
「市場規模の数字を出す際は、必ず出所(調査会社名・調査年)を明記し、定義(対象範囲)を1行添えること。根拠のない『市場規模◯兆円』は、詳しい相手ほど信頼を失う」
関連レポート(本ナレッジベース内)
| レポート | 関連ポイント |
|---|---|
| 国内通信4社 市場規模マッピングレポート | トップダウン市場規模分析の具体的な可視化例(ツリーマップ) |
| 日本の産業別GDP推移と成長産業分析レポート | マクロ統計を使ったトップダウン分析のデータソース・成長率の読み方 |
| 世界主要国のGDP推移と成長国分析レポート | 海外市場を見る際の名目・実質・為替変動の注意点 |
| 財務諸表の読み方入門 | 顧客企業のIT予算感(Share of Wallet)を財務諸表から読む基礎 |
| コンサルティング完全解説|グランドデザイン・EA | 市場規模分析を事業構想・グランドデザインに落とし込む上流工程との接続 |