IT営業 入門ガイド — 通信キャリア向けネットワーク技術編

SoftBank「AITRAS(アイトラス)」完全解説

AIと5G無線ネットワークを統合する次世代プラットフォーム — 目的・仕組み・意義をゼロから理解する
初心者向け AI-RAN SoftBank独自技術 NVIDIA連携 2024年11月発表
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重要:AITRASはBSSシステムではありません
AITRASは課金・CRM・注文管理などの業務システム(BSS)とは全く別のカテゴリです。 AITRASは「AIと5G無線ネットワーク(RAN)を同一基盤上で動かすネットワーク技術製品」です。 Amdocsとの関係もありません。BSS/OSSとの違いを必ず押さえてから顧客に説明してください。
1AITRASとは何か?
ひとことで言うと
「AIと5G基地局(RAN)を
同じコンピューター上で同時に動かす技術」
SoftBankが2024年11月に開発発表。AIと通信インフラの一体化を実現する世界初級の取り組み。
基本情報
名称AITRAS(アイトラス)
発表日2024年11月13日
開発元SoftBank Corp.
略称の意味AI + Telecom Radio Access System(AI×無線アクセスシステム)
ハードウェアNVIDIA GH200 Grace Hopper Superchip
カテゴリAI-RAN統合ソリューション(ネットワーク技術)
商用展開予定2026年〜(国内外の通信事業者へ)
なぜ重要なのか?

従来、5G基地局(RAN)とAI処理は別々のサーバーで動いていた。 基地局専用機器はAI処理に向かず、AIサーバーはリアルタイム通信処理に特化できなかった。

AITRASはNVIDIAの最先端GPU「GH200」の上で、 RAN処理とAI処理を同時に・同じハードウェアで動かすことを実現した。

これにより「基地局のある場所=エッジAIサーバーの場所」となり、 超低遅延のAIサービスを通信網の末端で提供できる。

2BSSとの違い — 混同しやすいので必ず押さえる
BSS(業務支援システム)
  • 顧客の課金・請求を管理
  • CRM・契約管理・注文管理
  • 「お金と顧客」を扱うビジネス系
  • Amdocs・Oracle等が担う
  • ソフトウェア製品・業務アプリ
AITRAS(AI-RAN)
  • 5G電波(無線)を高効率に送受信
  • AIによるネットワーク最適化
  • 「電波とAI処理」を扱う通信技術系
  • NVIDIA・Ericssonが連携
  • ハードウェア+ソフトウェア統合基盤
通信事業者のシステム全体像における位置づけ
AITRAS
AI-RANレイヤー(無線・ネットワーク技術) — 電波処理×AI処理の統合基盤。NVIDIA GH200上で動作。本資料の対象。
OSS
Operations Support System — ネットワーク監視・障害管理・回線開通自動化。AITRASのオーケストレーターと連携。
BSS
Business Support System — 顧客課金・CRM・注文管理。AITRASとは直接連携しない。Amdocs等が担う。
顧客
スマートフォン・IoTデバイス・自動運転車・工場機器などのエンドユーザー
営業での注意: 顧客から「SoftBankのシステム案件でAITRASを入れたい」という話が出た場合、 それはネットワーク技術の案件(基地局インフラの刷新)であり、 BSSのSI案件とは全く異なるアプローチが必要。担当部署・予算も別になる可能性が高い。
3AITRASの仕組み・構成
AIアプリ
エッジAIサービス
LLM(大規模言語モデル)/ 自動運転支援 / 工場異常検知 / 映像解析 など。超低遅延が必要なAIを基地局エッジで処理。
調整層
AITRASオーケストレーター(独自開発)
RANとAIアプリの間でGPUリソースを動的に配分。通信が忙しいときはRAN優先、余裕があるときはAI処理を増やす。
RAN処理
無線アクセスネットワーク処理(NVIDIA AI Aerial)
L1〜L3の無線信号処理ソフトウェア。従来は専用ASICチップで処理していたものをGPUで実行(vRAN)。
HW基盤
NVIDIA GH200 Grace Hopper Superchip
CPU(Grace)とGPU(Hopper)を超高速インターコネクト(NVLink-C2C)で統合した次世代チップ。AI処理と信号処理の両立を可能にする。
たとえ話で理解する: 従来は「発電所(AI処理センター)」と「家(5G基地局)」が遠く離れていた。 電気を遠くから送ると損失(遅延)が生じる。 AITRASは家の隣に小さな発電機(GPU)を置くイメージ。 遅延なく現場でAIを動かせる。
4開発背景・解決したかった課題
課題①:無線環境の複雑化

5Gの普及でスマホのトラフィックは急増。さらに自動運転・IoT・工場DXなど 超低遅延が必要なサービスが拡大。 「トラフィックが増えれば増えるほど電波干渉も増え、 高度で複雑なリアルタイム処理が必要になる」という構造的な課題があった。

課題②:専用ハードの限界

従来の基地局は専用ASICチップ(通信専用回路)で処理していた。 ASICはAI処理に向かず、基地局の隣にAIサーバーを別途設置するのはコスト・消費電力の面で非現実的だった。 GPUの進化(特にNVIDIAのGH200)によりこの課題を突破できるようになった。

SoftBankが先行している理由

SoftBankはグループ企業にNVIDIA株を大量保有し(孫正義氏はAI投資で知られる)、 NVIDIAとの技術協業において世界の通信事業者の中で最も早くアクセスできる立場にある。

NVIDIAのジェンスン・フアンCEOも「同一インフラでAIと5Gを運用できることはゲームチェンジャー」と SoftBankのAITRASを評価。SoftBankはこの技術を世界の通信事業者にライセンス・提供することも視野に入れている。

5主な特徴・スペック
20+
セルの協調制御
1つのAITRASハードウェアで20以上の基地局セルを協調制御できる
同時
AI×RAN同時実行
RANとAIアプリを同一GPU上で並行処理。専用機を別置き不要。
動的
リソース配分
トラフィック状況に応じてRANとAIのGPUリソースをリアルタイムに最適配分
期待される効果
効果詳細
RAN性能最大化AIが電波干渉を予測・制御し、通信品質と容量を向上
消費電力削減1台のハードウェアで処理を集約するためトータルの電力効率が向上
エッジAI展開基地局単位で超低遅延AIサービスを提供できる(LLM・自動運転等)
設備コスト削減従来は別々に必要だったサーバーを統合。設置スペース・費用を削減
6連携パートナーと実証事例
主要パートナー
NVIDIAGH200チップ提供、AI Aerialソフトウェア、AI-RANアーキテクチャの共同開発
EricssonEIAPオーケストレーターとのインターワーキング連携(2026年2月発表)
三菱重工エッジデータセンター向けAI-RANアーキテクチャの実証(2026年3月)
慶應義塾大学SFCキャンパスでの遠隔自動運転実証実験
主な実証・展開事例
NVIDIA本社ビル2025年3月、NVIDIA本社ビルへの実装展開
慶應SFC遠隔自動運転実証(エッジAI活用)
商用キャリア向け2025年〜:リファレンスキット提供開始
海外展開2026年〜:国内外通信事業者への提供目標
ビジネス視点のポイント: SoftBankはAITRASを自社ネットワークに使うだけでなく、 他の通信事業者にライセンスや技術提供することも戦略に含めている。 つまり「自社利用の技術」から「通信業界向けの製品」へと昇華させる動きがある。
7ユースケース — 何に使えるか
🚗 ユースケース①:自動運転・遠隔操作
自動運転や重機・ドローンの遠隔操作は「数ミリ秒レベルの超低遅延」が必要。 従来のクラウドAI(データセンターまで往復する)では遅延が生じる。 AITRASにより基地局のすぐそばでAI処理が完結するため、リアルタイム応答が実現できる。
🏭 ユースケース②:スマートファクトリー
工場内の機器の異常をカメラ・センサーで検知し、即時にラインを停止するなどの リアルタイムAI制御。工場内5Gネットワークと組み合わせることで、 クラウドを介さない自律的な生産管理が実現できる。
📡 ユースケース③:通信品質の自律最適化
AIが基地局周辺の電波干渉・ユーザー分布・トラフィック状況をリアルタイムに分析し、 アンテナの向き・出力・周波数帯の割り当てを自動調整。 人手を介さずにネットワーク品質を常に最適化する「自律型ネットワーク(Autonomous Network)」を実現。
🤖 ユースケース④:エッジLLM(生成AI)
GPUを内蔵した基地局(AITRAS)を使い、近くのユーザーへの生成AIサービスを超低遅延で提供。 たとえば現場作業員へのリアルタイム翻訳・マニュアル検索・音声アシスタントなど、 クラウドなしでエッジで動くLLMサービスが可能になる。
8よくある質問と答え
Q「AITRASはSoftBankが使うだけ?それとも売り物になるの?」
ASoftBankは自社ネットワークへの展開を進める一方で、他の通信事業者へのリファレンスキット提供・技術ライセンスも検討しています。2026年以降に国内外のキャリアへの展開を目標としており、「SoftBank発の通信技術プロダクト」としてビジネス化を狙っています。
Q「AITRASとOpen RANはどう違うの?」
AOpen RANは「基地局の各部品をオープンな規格で分離し、異なるベンダーの機器を組み合わせられるようにする」アーキテクチャの考え方です。AITRASはOpen RANの発展形として、そのRAN処理基盤にAI処理を統合したものです。AITRASはOpen RANの一形態(vRAN + AI)と理解してください。
Q「NVIDIAが関係しているなら、NVIDIAと直接取引すればいいのでは?」
ANVIDIAはGH200チップとAI Aerialソフトウェアを提供しますが、「通信キャリアの実際のRAN環境に合わせてシステムを統合・検証する」のはSoftBankが担っています。AITRASはSoftBankの通信ノウハウとNVIDIAのAI技術の掛け算であり、どちらか単独では成立しません。
Q「まだ実証段階では?商用で使えるの?」
A2024年11月に開発発表、2025年3月にNVIDIA本社ビルへの実装、2026年には国内外キャリアへの提供開始を目標としています。Ericssonとのオーケストレーター連携(2026年2月)も発表されており、商用化に向けた動きが加速しています。ただし現時点では大規模商用展開には至っておらず、パートナーキャリアとの実証段階が継続中です。
9頻出キーワード集
RAN(Radio Access Network)
無線アクセスネットワーク。スマホと基地局の間の無線通信を担う部分。
vRAN(仮想RAN)
従来専用ハードで処理していたRAN機能を汎用サーバー(CPU/GPU)で実行すること。AITRASの基盤。
Open RAN
RANの各機能をオープンな仕様で分離し、異ベンダー機器を組み合わせられるアーキテクチャ。
GH200 Grace Hopper
NVIDIAのSuperchip。CPUとGPUを超高速接続で統合。AI処理と信号処理の両立を可能にする。
エッジコンピューティング
データの処理をクラウドではなく、ユーザーの近く(エッジ)で行うアーキテクチャ。超低遅延を実現。
AI Aerial(NVIDIA)
NVIDIAが提供するvRAN向けソフトウェアスタック。AITRASのRAN処理レイヤーに使われている。
オーケストレーター
RANとAIアプリの間でリソースを自動調整する制御ソフトウェア。AITRASの中核機能。
自律型ネットワーク
AIがネットワークを自動的に監視・最適化・修復する仕組み。AITRASが目指す最終形のひとつ。