IT営業 解説レポート — 通信キャリア向けITシステム編

Salesforce Communications Cloud 完全解説
× 楽天モバイル BSSとの関係を読み解く

「デジタルBSS」を掲げるSalesforce Communications Cloudの正体と、楽天モバイルの現行BSS体制(Netcracker/NEC)との位置関係・商機を整理する
Salesforce Communications Cloud BSS(業務支援システム) 楽天モバイル 楽天シンフォニー Netcracker 事実と考察を明示
1エグゼクティブサマリー
  • Salesforce Communications Cloudは、2020年に買収した業界特化型プラットフォーム「Vlocity」を核とする、通信事業者向けのカタログ駆動型デジタルBSSスイート。CPQ(見積・構成)・受注管理・デジタルコマース・カスタマーサービス・AIエージェント(Agentforce)を1つのプラットフォームで提供する。
  • 公開情報を精査した限り、楽天モバイルがSalesforce Communications Cloudを導入しているという事実は確認できなかった。楽天モバイルのBSS/OSSは現在もNetcracker(NEC子会社)が担っており、コンタクトセンターは自社開発の「楽天コネクト Storm」が主軸である。
  • 一方で、Salesforce Communications Cloudは既存のBilling/Mediation等レガシーBSSを置き換えるのではなく、TM Forum Open API等で疎結合に「上に被せる」デジタルフロント層として設計されており、Netcracker中心の現行体制と共存し得るアーキテクチャである点は技術的事実として重要。
  • 国内ではビッグローブ(BIGLOBE)が2024年11月、国内初のCommunications Cloud導入事例として販売管理システム刷新を発表しており、日本のISP/MVNO領域でも実導入が始まっている。
  • 楽天グループ全体で見るとSalesforceは主に楽天市場(EC)のCRM/SFA基盤として深く浸透している一方、金融・モバイル領域への浸透は限定的(別レポート「Salesforce×楽天グループ 取引実績とtoBeマーケティングの関係」参照)。楽天モバイルのBSS領域はSalesforceにとって「まだ取れていない大型商圏」と位置づけられる。
本レポートの読み方: 本文中、公開情報で裏付けが取れる内容には事実、公開情報から論理的に導いた解釈には推論、根拠が薄い仮説的な考察には仮説のバッジを付けている。営業トークに使う際はこの区別を意識すること。
2Salesforce Communications Cloudとは
事実
ひとことで言うと
通信事業者向けに業界特化のデータモデル・カタログを
あらかじめ組み込んだ「カタログ駆動型デジタルBSS」
Salesforce公式は「通信業界向けNo.1 AI CRM」「コマースから決済までをカバーする完全なデジタルBSSスイート」と位置づけている
基本的な性格

Salesforce Platform(Sales Cloud / Service Cloud / Data Cloud等の共通基盤)の上に、 通信業界特有の商品カタログ・契約構造・注文プロセスのデータモデルがあらかじめ組み込まれた「業界クラウド(Industry Cloud)」の一つ。

一般的なCRMと異なり、複雑な料金プラン・バンドル商品・契約変更(アップセル/ダウンセル)・複数回線契約といった通信特有の商品構造を、コードを書かずに設定(Configuration)ベースで扱えるよう設計されている。

従来型BSS(Amdocs/Netcracker等)との立ち位置の違い

AmdocsやNetcrackerがBilling(課金計算)を含むバックエンドまでフルスタックで提供するのに対し、 Communications CloudはCRM・見積/受注・コマース・カスタマーサービスといった「顧客接点〜受注」側に強みを持つ。

Billing/Mediation/Revenue Managementのようなバックエンドは、既存の専業ベンダー(Amdocs、Netcracker、CSG等)や自社基盤とAPI連携で組み合わせるのが一般的な導入パターンとされる。

覚え方: Amdocs/Netcrackerが「BSSの全部を1社で作る老舗ゼネコン」だとすれば、Salesforce Communications Cloudは「顧客対応・営業・受注の“表側”をSalesforceの汎用CRM基盤の強さで刷新し、裏側(課金計算等)は既存ベンダーと組む」というコンポーザブル(部品を組み合わせる)型のアプローチに近い。
3沿革 — Vlocity買収からCommunications Cloudへ
事実
タイムライン
2014年〜 Vlocity社設立(Salesforce Platform上で通信・保険・公共等の業界別クラウドを開発)
2020年2月 Salesforceが Vlocity買収の最終合意を締結
2020年6月 買収完了。VlocityのCEOがSalesforce Industries部門を率いる体制に
以降 Vlocityの通信業界向け機能群が「Communications Cloud」としてブランド統合・機能拡張
近年 Agentforce(AIエージェント)・Data Cloudとの統合、TM Forum Open API / MEF LSO Sonata対応を強化
2024年11月 国内初導入としてビッグローブ(BIGLOBE)が採用を発表
営業で使えるポイント: 「Communications Cloud」という名前だけを見ると新製品に見えるが、中身は10年以上通信業界に特化してきたVlocityの技術資産がベース。ゼロから作った製品ではなく、業界データモデルの成熟度は評価すべきポイントとして説明できる。
4Communications Cloudを構成する主なモジュール
事実
📋

Product Catalog & CPQ

複雑な料金プラン・バンドル・オプションを商品カタログとして一元管理し、見積(Quote)・構成(Configure)を自動化。新料金プランの投入スピード短縮に直結。

例:5G新プランを営業チャネル横断で即時展開
📦

Order Management

受注から履行(Fulfillment)までのプロセスをオーケストレーション。TM Forum Open API(TMF622等)でOSS/バックエンドへ開通指示を連携する橋渡し役。

例:契約変更をリアルタイムに複数バックエンドへ配信
🛒

Digital Commerce

個人向け(B2C)・法人向け(B2B)双方のセルフサービス購買体験を提供。オンライン契約・機種変更・オプション追加をノーコードで構築できるコマース基盤。

例:Webから機種変更・プラン変更が完結
🎧

Contact Center for Communications

Service Cloud基盤に通信業界特有の契約・請求照会を統合したコンタクトセンター機能。顧客の契約全体を1画面で把握できる。

例:オペレーターが契約変更〜請求照会をワンストップ対応
🤖

Agentforce for Communications

24時間365日対応の生成AIエージェント。注文状況照会・料金トラブル対応・簡易な契約変更などを自動化し、有人対応との協働(ハイブリッド労働力)を実現。

例:夜間の請求問い合わせをAIエージェントが一次対応
📈

Marketing / Data Cloud連携

Marketing CloudやData Cloudと連携し、契約・利用データを統合した解約予兆分析・アップセル施策を実施。BSSデータをマーケティング資産として活用する狙い。

例:解約予兆スコアに基づくリテンション施策の自動配信
従来のBSS用語との対応: Catalog/CPQ・Order Managementは、Amdocsガイド(本サイト別記事「BSS/OSS×Amdocs完全解説」参照)で言うProduct Catalog・Order Managementの領域に相当。Communications CloudはBilling(課金計算)そのものは提供しない/限定的な点が最大の特徴で、既存Billing基盤との連携が導入の前提となる。
5レガシーBSSとの関係性 — 「置き換え」ではなく「重ね置き」
顧客
エンドユーザー(個人・法人)
Webポータル・アプリ・ショップ・コールセンター
Comms Cloud
Salesforce Communications Cloud — デジタルフロント層
CRM / CPQ / Order Management / Digital Commerce / Contact Center / Agentforce
Legacy BSS
既存BSSバックエンド(Amdocs / Netcracker / 自社開発等)
Billing(課金計算)/ Revenue Management / Mediation — TM Forum Open APIで連携
OSS
OSS(ネットワーク運用・開通)
Service Provisioning / Inventory / Fault Management
NW設備
ネットワーク設備(基地局・回線・コア網)
事実
TM Forum Open API / MEF LSO Sonata 対応

Communications CloudはTM Forum Open API(TMF620 商品カタログ、TMF622/TMF641 受注、TMF679 商品適格性確認 等)に準拠したコンポーネントを提供し、TM Forumの認証も取得している。またMEF LSO Sonata(卸売・ホールセール取引向け標準)とも互換性がある。

これにより既存のBilling/Mediation/OSSを一括リプレースせずに、標準APIで段階的に接続・置き換えできるという導入方式が可能になる。これはAmdocsガイドで解説した「モダナイゼーション」文脈における、Big Bang型(一括刷新)ではなくCoexistence型(共存)の近代化アプローチの代表例といえる。

初心者が混同しやすいポイント: 「Salesforce Communications Cloud=BSS丸ごと」ではない。営業トークとしては、「今のBilling/課金基盤(Netcracker等)は活かしたまま、顧客接点・受注・カスタマーサービスだけを刷新できる」という提案の方が現実的かつ刺さりやすい。
6楽天モバイルの現行BSS体制(おさらい)
事実
BSS/OSS担当ベンダーNetcracker Technology(NEC子会社)— 楽天モバイルのBSS/OSSを担当していることが広く知られている
コンタクトセンター基盤自社ブランドのクラウドコンタクトセンター「楽天コネクト Storm」を法人向け・自社向けの主力として展開
Storm と外部CRMの関係楽天コネクト StormはSalesforceを含む外部CRM/UC/WFM製品と「連携可能」という位置付け(Stormの公式FAQに記載)。Salesforceが基幹として全面導入されているという情報ではない
楽天シンフォニー通信インフラ輸出事業(楽天シンフォニー)とSalesforceの関係を示す公開情報は確認できず。詳細は次章⑧で扱う
事実(補足)
Billing/課金領域は必ずしもNetcracker一色ではない: 2023年7月、楽天モバイルはOracle Communicationsのクラウドネイティブ・ポリシー&チャージング(課金・ポリシー制御)ソリューションを採用し、楽天シンフォニーのクラウドネイティブ基盤「Symcloud」上で稼働させることを発表した。Netcrackerが担う領域とOracleが担う領域(ポリシー制御・課金エンジン)が併存しており、「楽天モバイルのBSS/OSS=Netcracker一社に閉じている」と単純化するのは不正確な可能性がある点に注意したい。
つまり: 楽天モバイルの「お金と契約の管理=BSS」は、Netcracker(NEC)を中核としつつも一部機能(ポリシー&チャージング等)は他ベンダー(Oracle)とマルチベンダーで構成されている可能性があり、Salesforceは現時点では「Stormと連携できる外部CRMの選択肢の一つ」という位置付けにとどまる、というのが公開情報から読み取れる現状である。
7Salesforce×楽天グループ全体の現在地
事実

詳細は本サイト別記事「Salesforce×楽天グループ 取引実績とtoBeマーケティングの関係」に譲るが、要点を再掲する。

事業ドメインSalesforceの浸透度
EC(楽天市場)◎ 深い。出店者向けCRM/SFA/コールセンターをSales Cloud/Service Cloud/Experience Cloudで内製構築・運用。専任のSalesforceエンジニア組織を保有
金融(カード・銀行・証券・生命・損保)△ 製品混在。楽天生命はMicrosoft Dynamics CRM Onlineを採用するなど、グループ横断でのSalesforce統一基盤化は進んでいない
モバイル(楽天モバイル)△ 限定的。BSS/OSSはNetcracker中心。SalesforceはStormの連携先の一つという位置付けにとどまる
営業視点での意味: 楽天グループの中で「Salesforceがまだ本格的に取れていない大型ドメイン」が金融とモバイルであり、楽天モバイルのBSS領域はSalesforceにとっても・富士通のようなSIパートナーにとっても未開拓の商圏と読める。
8楽天シンフォニー(Rakuten Symphony)との関連性
事実
楽天シンフォニーとは(おさらい)
楽天モバイルが構築した通信プラットフォーム「RCP」を
世界の通信キャリアにB2B輸出する楽天グループの通信テック子会社
2021年設立・本社シンガポール。詳細は本サイト別記事「RCP / 楽天シンフォニー / OSS / Cloud 解説」参照

本レポートの主題である「Communications Cloud × 楽天モバイルBSS」を考える上で、楽天モバイル(日本国内の通信事業)楽天シンフォニー(RCPを世界に輸出するB2B事業)は別軸で整理する必要がある。楽天シンフォニーは自らもBSS/OSSを含む通信プラットフォームのベンダーとして、AmdocsやNetcracker、そしてSalesforce Communications Cloudと同じ土俵に立つ存在でもある。

Symworld / Symcloud — 楽天シンフォニーが自ら提供するBSS/OSS

楽天シンフォニーの統合プラットフォーム「Symworld」は、110以上のクラウドネイティブ機能を事前統合済みで提供し、その中にOSS/BSS(運用・業務支援システム)そのものが標準搭載されている。稼働基盤は「Symcloud」というクラウドネイティブ基盤。

つまり楽天シンフォニーは、海外の通信キャリアに対しては「BSS/OSSを含むフルスタックの通信プラットフォームを丸ごと販売する」立場であり、Amdocs・Netcracker・Salesforce Communications Cloudとグローバル市場で競合しうるプレイヤーでもある。

Symworld Marketplace — オープンなエコシステム戦略

楽天シンフォニーは「世界初のテレコム向けマーケットプレイス」を標榜するSymworld Marketplaceを展開し、サードパーティ製品をアプリストア型で組み込める仕組みを構築している。

確認できている参加ベンダー例:Nokia(クラウドネイティブCoreソフトウェア、2022年3月に最初のSymworldパートナーとして選定)、AirHop(RAN自動化xApps、2023年2月)、F5(クラウドネイティブSaaSセキュリティ)、Oracle(Policy and Charging、2023年7月)。Salesforceがこのマーケットプレイスの参加ベンダーであるという事実は確認できなかった。

アーキテクチャ上の共通点: Symworld Marketplaceの「標準化されたプラットフォームにサードパーティBSS/OSSコンポーネントを疎結合で組み込む」という設計思想は、第⑤章で解説したSalesforce Communications CloudのTM Forum Open APIによる「重ね置き型・Coexistence型」のアーキテクチャ思想と極めて近い。楽天シンフォニー自身がOracleのPolicy and ChargingをSymworldに組み込んだ前例は、同種の枠組みで他のBSS/CRMコンポーネントが将来的に組み込まれる可能性を示す参考事例といえる。
事実
富士通×楽天モバイル/楽天シンフォニーの既存関係
2021年5月楽天モバイルと富士通がOpen RANソリューションの共同開発およびグローバル展開に向けたMOU(覚書)を締結。富士通のO-RAN準拠無線装置をRCPに統合
2025年3月楽天モバイルが5G Sub6基地局において富士通製Open RAN対応無線装置を採用し、エリア拡大を加速すると発表
NECとの関係楽天モバイルは同時期にNECともOpen RAN普及に向けた連携を発表。NECは自社子会社Netcrackerを通じて楽天モバイルのBSS/OSSも担っており、Open RAN(無線設備)とBSS/OSS(業務支援)の両輪でNECが楽天と深い関係を持つ構図がある
営業視点での意味: 富士通は楽天モバイル・楽天シンフォニーとすでに無線設備(Open RAN)レイヤーでの実務的な協業関係を持っている。この既存の接点は、BSS/CRM領域(Salesforce Communications Cloud)の提案を持ち込む際の組織的な足がかりになり得る。一方でNECは無線設備の協業相手であると同時にBSS/OSS(Netcracker)の現職ベンダーでもあり、NECとの競合関係を慎重に見極める必要がある。
9楽天モバイルBSSとCommunications Cloudの関係性(考察)
重要な前置き: 本セクションは公開情報からの考察・シナリオ分析であり、実際の導入・商談の事実を示すものではない。営業活動で使う際は「現状は未確認だが、以下のような可能性が考えられる」という文脈で扱うこと。
仮説
シナリオA:デジタルフロント層としての部分導入

Netcracker製BSS/OSSの中核(Billing・課金計算・Mediation)は維持したまま、法人営業のCPQ・オンライン契約(Digital Commerce)・コンタクトセンターのAI化(Agentforce)といった顧客接点部分だけをCommunications Cloudに置き換えるという構成は、前章のアーキテクチャ上は技術的に成立する。

楽天モバイルは法人契約数を拡大中(2024年時点で1万社超)であり、法人向け見積・契約プロセスの効率化ニーズは高いと推測される。この領域はNetcrackerよりもCPQ/コマースに強いCommunications Cloudが得意とする範囲と重なる。

仮説
シナリオB:現状維持(Netcracker一本化の継続)

楽天モバイルはコスト構造上、グループ内リソース(楽天コネクト Storm等)の内製活用を重視する傾向が強く、外部SaaSへの依存を避ける経営判断も十分あり得る。また現行BSS/OSSの刷新は稼働中の通信インフラに直結するため、リスクを取ってまで置き換える動機が乏しい可能性もある。

推論
シナリオC:非通信領域(法人サービス)からの入口

楽天モバイルは通信網以外にも法人向けサービス(Rakuten最強プラン ビジネス、IoT、コンタクトセンター外販等)を展開している(本サイト別記事「楽天モバイル 非通信事業システム構成図」参照)。これらは通信網本体のBSSほど刷新リスクが高くないため、Communications CloudやSalesforce製品群がまず非通信の法人サービス領域から入る可能性のほうが、通信網BSS本体を直接置き換えるより現実的と考えられる。

仮説
シナリオD:楽天モバイル本体ではなく「楽天シンフォニーの海外顧客」への提案

楽天シンフォニーはSymworld Marketplaceという「BSS/OSSコンポーネントを組み込めるオープンな場」を自ら運営している。Salesforceにとっての商機は「楽天モバイル自身のBSSを置き換える」ことよりも、「楽天シンフォニーがRCP/Symworldを販売している海外キャリア(1&1ドイツ等)に対し、Symworld Marketplace経由でCommunications Cloudをデジタルフロント層として提供する」方が、Nokia・AirHop・F5・Oracleの前例を踏まえると現実的な入口になり得る。

これは楽天モバイル個社の商談というより、楽天シンフォニーとのパートナーシップ・エコシステム参加の話であり、商談のカウンターパートも営業部門ではなくアライアンス/プロダクト部門になる点に注意。

次のアクション(営業向け): 「楽天モバイルの法人営業部門で見積・契約プロセスに課題はないか」「Stormと外部CRMの連携実績はあるか」に加え、「楽天シンフォニーのSymworld Marketplaceにパートナーとして参加する余地はあるか」を商談時にヒアリングし、A〜Dのどのシナリオに近いかを見極めることが、的確な提案の出発点になる。
10国内事例:ビッグローブ(BIGLOBE)— 国内初導入
事実
発表時期2024年11月
導入企業ビッグローブ株式会社(BIGLOBE) — 大手ISP・MVNO事業者
位置づけSalesforce Communications Cloudの国内初導入事例としてセールスフォース・ジャパンがプレスリリースを発表
導入目的販売管理システムの刷新(既存の販売管理システムをCommunications Cloudへ移行)
営業での使い方: 「Communications Cloudは海外の製品で日本には実績がない」という反論に対し、BIGLOBEという日本のISP/MVNO大手が国内初事例として販売管理システムを刷新したという具体的な事実を示せる。楽天モバイルと同じ「日本の通信キャリア」というカテゴリで語れる数少ない実例。
11Communications Cloud vs Amdocs / Netcracker 比較
事実
アーキテクチャ思想の比較
比較項目 Salesforce Communications Cloud Amdocs / Netcracker(従来型BSS)
出自CRMベンダー(Salesforce)+Vlocity買収通信専業ベンダーとして数十年の実績
得意領域CRM・CPQ・受注管理・コマース・カスタマーサービスBilling(課金計算)を含むフルスタックBSS/OSS
Billing機能限定的(既存Billingとの連携が前提)中核機能として最重要視
導入アプローチ既存システムへの「重ね置き」型が主流フルスタック刷新・段階移行の両方あり
開発方式ローコード設定(Configuration中心)プラットフォーム提供+SI導入・カスタマイズ
AI機能Agentforce(生成AIエージェント)を全面統合Amdocs amAIz等、各社独自のAI基盤を展開中
日本市場の実績BIGLOBE(2024年〜、国内初)Netcracker=楽天モバイル、Amdocs=J:COM等、実績豊富
レビュー評価Gartner Peer Insights: 4.3(該当カテゴリ)NEC(Netcracker): 4.0(同カテゴリ)
注意: 上表のGartner評価はカテゴリ・レビュー母数が異なるため単純比較の材料としては参考程度に留めること。またAmdocs/Netcracker側もOrder Management・CPQ機能を強化しており、両陣営の機能境界は年々近づいている。
「第三の勢力」としての楽天シンフォニー: 第⑧章で見た通り、楽天シンフォニーのSymworld/SymcloudもBSS/OSSを標準搭載したフルスタック・プラットフォームとして海外キャリアに販売されている。グローバル市場という土俵で見れば、Communications CloudはAmdocs・Netcrackerだけでなく楽天シンフォニー自身とも将来的に競合・協業しうる関係にある点は押さえておきたい。
12提案シナリオ(IT営業向け)
🛒 シナリオ①:法人契約プロセスのデジタル化

痛み「楽天モバイルの法人営業チャネルで見積〜契約〜開通依頼が手作業・複数システムをまたいでおり、契約数拡大(1万社超)にオペレーションが追いついていない可能性がある」

提案Communications CloudのCPQ/Order ManagementをNetcracker等の既存Billingと連携させ、法人向け見積〜契約プロセスをセルフサービス化・自動化する。既存バックエンドは維持したまま「表側」だけを刷新するため、リスクを抑えた提案が可能。

🤖 シナリオ②:Agentforceによるカスタマーサポート補強

痛み「楽天コネクト Storm運用の中で、問い合わせ量の増加・深夜対応・一次対応の効率化に課題がある」

提案StormとAgentforce for Communicationsを連携させ、注文状況照会・請求トラブルなど定型的な問い合わせをAIエージェントが一次対応。有人対応との協働モデルで対応工数を削減する。

🔗 シナリオ③:Netcracker運用チームへの「補完提案」としての立て付け

痛み「Billing刷新はリスクが高く着手できないが、顧客接点の改善は急ぎたい」という声がある場合

提案「Netcrackerを置き換える提案」ではなく「TM Forum Open APIで疎結合に共存させる提案」として位置づけることで、既存ベンダー・運用チームとの摩擦を避けながら合意形成しやすくなる。

🏢 シナリオ④:非通信の法人サービス領域からの足がかり

痛み「通信網本体のBSSは刷新リスクが高く商談化しにくい」

提案IoT・コンタクトセンター外販・Symworld外販等、非通信の法人サービス領域のCRM/受注管理から先行導入し、実績を作った上で通信網BSS本体への提案につなげる段階的アプローチ。

🌍 シナリオ⑤:楽天シンフォニー Symworld Marketplaceへのパートナー参加

痛み「楽天モバイル本体のBSS商談は難易度が高いが、楽天シンフォニーが世界のキャリアに展開しているRCP/Symworldの拡販に自社製品を乗せたい」

提案Nokia・AirHop・F5・Oracleがそうしたように、Communications CloudをSymworld Marketplaceの認定パートナー製品として組み込む提案を楽天シンフォニーのアライアンス部門に持ち込む。富士通は既にOpen RANレイヤーで楽天モバイル・楽天シンフォニーと協業実績があり、この関係を糸口にアライアンス部門への紹介を依頼することも一案。

13よくある質問・反論と返し方
Q「楽天モバイルはSalesforce Communications Cloudを導入しているのか?」
A公開情報を精査した限り、導入している事実は確認できませんでした。楽天モバイルのBSS/OSSは現在Netcracker(NEC子会社)が担っており、Salesforceは自社コンタクトセンター「楽天コネクト Storm」の連携先の一つという位置付けにとどまります。断定的な物言いは避け、「現状は未確認」と正直に伝えた上で、将来の商機として整理するのが誠実な対応です。
Q「Communications CloudってNetcrackerの置き換え提案なの?」
A必ずしもそうではありません。TM Forum Open API対応により、既存のBilling/課金基盤を残したまま顧客接点・受注部分だけを刷新する「共存型」の導入が可能です。全面リプレースよりもリスクが低く、商談化しやすい切り口になります。
Q「日本の通信キャリアでの実績はあるの?」
A2024年11月にビッグローブ(BIGLOBE)が国内初導入事例として販売管理システムを刷新しています。大手キャリア本体(NTTドコモ・KDDI・ソフトバンク・楽天モバイル)での導入事例は本レポート作成時点では確認できていません。
Q「Salesforceは楽天市場でセキュリティ事故を起こしたのでは?営業しづらいのでは?」
A2020年12月、楽天・楽天カード・楽天Edyで最大148万件規模の情報漏えいが発生し、原因はSalesforce Experience Cloudのアクセス権限設定不備でした。ただしこれは「Salesforce製品自体の欠陥」ではなく「設定運用上のミス」と整理されており、逆にTrust/セキュリティガバナンス強化(アクセス権限管理・Health Check等)を切り口にした提案に転換できます。
Q「楽天モバイルと楽天シンフォニーって同じ会社の話?」
A別の役割を持つ組織として整理するのが正確です。楽天モバイルは日本国内の通信キャリア事業(BSSはNetcracker中心)、楽天シンフォニーはそのRCP技術を世界のキャリアにB2B輸出するシンガポール本社の子会社です。楽天シンフォニー自身もSymworld/SymcloudというBSS/OSS込みのプラットフォームを持ち、Symworld Marketplaceというオープンなパートナーエコシステムを運営しています。商談を持ちかける相手・文脈が全く異なるため混同しないよう注意してください。
14頻出キーワード集
Salesforce / Communications Cloud キーワード
Vlocity
2020年にSalesforceが買収した業界特化型プラットフォーム企業。Communications Cloudの技術基盤。
Industries Cloud
Salesforceが提供する業界特化型クラウド群の総称。Communications Cloudはその一つ。
CPQ(Configure, Price, Quote)
商品構成・価格設定・見積作成を自動化する機能。複雑な通信プランの見積を効率化する。
Agentforce
Salesforceの生成AIエージェント基盤。Communications Cloudでは問い合わせ一次対応等に活用される。
Data Cloud
Salesforceの顧客データ統合基盤。契約・利用データを統合し解約予兆分析等に活用。
MEF LSO Sonata
卸売・ホールセール通信取引向けのAPI標準。Communications Cloudが互換性を持つ。
従来型BSS / 楽天モバイル関連キーワード
Netcracker
NEC子会社の通信BSS/OSSベンダー。楽天モバイルのBSS/OSSを担当。
楽天コネクト Storm
楽天モバイルの自社ブランド クラウドコンタクトセンターサービス。外部CRMと連携可能。
TM Forum Open API
通信事業者向けの標準化されたREST APIの枠組み。異なるBSS/OSS間の疎結合連携を可能にする。
Coexistence型モダナイゼーション
既存システムを全面刷新せず、標準APIで新旧システムを共存させながら段階的に近代化する手法。
楽天シンフォニー(Rakuten Symphony)
楽天の通信インフラ輸出事業。RCPを世界のキャリアに販売するB2B子会社で、自らもBSS/OSSベンダーの顔を持つ。
Symworld / Symcloud
楽天シンフォニーの統合プラットフォーム(Symworld)とその稼働基盤(Symcloud)。OSS/BSSを標準搭載する。
Symworld Marketplace
楽天シンフォニーが運営するテレコム向けアプリストア型マーケットプレイス。Nokia・AirHop・F5・Oracle等がパートナーとして参加。
15出典・参考情報源
本レポートは公開Web情報に基づく調査・考察であり、楽天モバイル・楽天シンフォニー・Salesforce・Netcracker・Oracle各社の非公開契約内容や導入実態を反映したものではない。「楽天モバイルBSSとの関係性」章(⑨)は考察・仮説であり、事実として断定しないこと。