- Salesforce Communications Cloudは、2020年に買収した業界特化型プラットフォーム「Vlocity」を核とする、通信事業者向けのカタログ駆動型デジタルBSSスイート。CPQ(見積・構成)・受注管理・デジタルコマース・カスタマーサービス・AIエージェント(Agentforce)を1つのプラットフォームで提供する。
- 公開情報を精査した限り、楽天モバイルがSalesforce Communications Cloudを導入しているという事実は確認できなかった。楽天モバイルのBSS/OSSは現在もNetcracker(NEC子会社)が担っており、コンタクトセンターは自社開発の「楽天コネクト Storm」が主軸である。
- 一方で、Salesforce Communications Cloudは既存のBilling/Mediation等レガシーBSSを置き換えるのではなく、TM Forum Open API等で疎結合に「上に被せる」デジタルフロント層として設計されており、Netcracker中心の現行体制と共存し得るアーキテクチャである点は技術的事実として重要。
- 国内ではビッグローブ(BIGLOBE)が2024年11月、国内初のCommunications Cloud導入事例として販売管理システム刷新を発表しており、日本のISP/MVNO領域でも実導入が始まっている。
- 楽天グループ全体で見るとSalesforceは主に楽天市場(EC)のCRM/SFA基盤として深く浸透している一方、金融・モバイル領域への浸透は限定的(別レポート「Salesforce×楽天グループ 取引実績とtoBeマーケティングの関係」参照)。楽天モバイルのBSS領域はSalesforceにとって「まだ取れていない大型商圏」と位置づけられる。
あらかじめ組み込んだ「カタログ駆動型デジタルBSS」
Salesforce Platform(Sales Cloud / Service Cloud / Data Cloud等の共通基盤)の上に、 通信業界特有の商品カタログ・契約構造・注文プロセスのデータモデルがあらかじめ組み込まれた「業界クラウド(Industry Cloud)」の一つ。
一般的なCRMと異なり、複雑な料金プラン・バンドル商品・契約変更(アップセル/ダウンセル)・複数回線契約といった通信特有の商品構造を、コードを書かずに設定(Configuration)ベースで扱えるよう設計されている。
AmdocsやNetcrackerがBilling(課金計算)を含むバックエンドまでフルスタックで提供するのに対し、 Communications CloudはCRM・見積/受注・コマース・カスタマーサービスといった「顧客接点〜受注」側に強みを持つ。
Billing/Mediation/Revenue Managementのようなバックエンドは、既存の専業ベンダー(Amdocs、Netcracker、CSG等)や自社基盤とAPI連携で組み合わせるのが一般的な導入パターンとされる。
Product Catalog & CPQ
複雑な料金プラン・バンドル・オプションを商品カタログとして一元管理し、見積(Quote)・構成(Configure)を自動化。新料金プランの投入スピード短縮に直結。
Order Management
受注から履行(Fulfillment)までのプロセスをオーケストレーション。TM Forum Open API(TMF622等)でOSS/バックエンドへ開通指示を連携する橋渡し役。
Digital Commerce
個人向け(B2C)・法人向け(B2B)双方のセルフサービス購買体験を提供。オンライン契約・機種変更・オプション追加をノーコードで構築できるコマース基盤。
Contact Center for Communications
Service Cloud基盤に通信業界特有の契約・請求照会を統合したコンタクトセンター機能。顧客の契約全体を1画面で把握できる。
Agentforce for Communications
24時間365日対応の生成AIエージェント。注文状況照会・料金トラブル対応・簡易な契約変更などを自動化し、有人対応との協働(ハイブリッド労働力)を実現。
Marketing / Data Cloud連携
Marketing CloudやData Cloudと連携し、契約・利用データを統合した解約予兆分析・アップセル施策を実施。BSSデータをマーケティング資産として活用する狙い。
Communications CloudはTM Forum Open API(TMF620 商品カタログ、TMF622/TMF641 受注、TMF679 商品適格性確認 等)に準拠したコンポーネントを提供し、TM Forumの認証も取得している。またMEF LSO Sonata(卸売・ホールセール取引向け標準)とも互換性がある。
これにより既存のBilling/Mediation/OSSを一括リプレースせずに、標準APIで段階的に接続・置き換えできるという導入方式が可能になる。これはAmdocsガイドで解説した「モダナイゼーション」文脈における、Big Bang型(一括刷新)ではなくCoexistence型(共存)の近代化アプローチの代表例といえる。
| BSS/OSS担当ベンダー | Netcracker Technology(NEC子会社)— 楽天モバイルのBSS/OSSを担当していることが広く知られている |
| コンタクトセンター基盤 | 自社ブランドのクラウドコンタクトセンター「楽天コネクト Storm」を法人向け・自社向けの主力として展開 |
| Storm と外部CRMの関係 | 楽天コネクト StormはSalesforceを含む外部CRM/UC/WFM製品と「連携可能」という位置付け(Stormの公式FAQに記載)。Salesforceが基幹として全面導入されているという情報ではない |
| 楽天シンフォニー | 通信インフラ輸出事業(楽天シンフォニー)とSalesforceの関係を示す公開情報は確認できず。詳細は次章⑧で扱う |
詳細は本サイト別記事「Salesforce×楽天グループ 取引実績とtoBeマーケティングの関係」に譲るが、要点を再掲する。
| 事業ドメイン | Salesforceの浸透度 |
|---|---|
| EC(楽天市場) | ◎ 深い。出店者向けCRM/SFA/コールセンターをSales Cloud/Service Cloud/Experience Cloudで内製構築・運用。専任のSalesforceエンジニア組織を保有 |
| 金融(カード・銀行・証券・生命・損保) | △ 製品混在。楽天生命はMicrosoft Dynamics CRM Onlineを採用するなど、グループ横断でのSalesforce統一基盤化は進んでいない |
| モバイル(楽天モバイル) | △ 限定的。BSS/OSSはNetcracker中心。SalesforceはStormの連携先の一つという位置付けにとどまる |
世界の通信キャリアにB2B輸出する楽天グループの通信テック子会社
本レポートの主題である「Communications Cloud × 楽天モバイルBSS」を考える上で、楽天モバイル(日本国内の通信事業)と楽天シンフォニー(RCPを世界に輸出するB2B事業)は別軸で整理する必要がある。楽天シンフォニーは自らもBSS/OSSを含む通信プラットフォームのベンダーとして、AmdocsやNetcracker、そしてSalesforce Communications Cloudと同じ土俵に立つ存在でもある。
楽天シンフォニーの統合プラットフォーム「Symworld」は、110以上のクラウドネイティブ機能を事前統合済みで提供し、その中にOSS/BSS(運用・業務支援システム)そのものが標準搭載されている。稼働基盤は「Symcloud」というクラウドネイティブ基盤。
つまり楽天シンフォニーは、海外の通信キャリアに対しては「BSS/OSSを含むフルスタックの通信プラットフォームを丸ごと販売する」立場であり、Amdocs・Netcracker・Salesforce Communications Cloudとグローバル市場で競合しうるプレイヤーでもある。
楽天シンフォニーは「世界初のテレコム向けマーケットプレイス」を標榜するSymworld Marketplaceを展開し、サードパーティ製品をアプリストア型で組み込める仕組みを構築している。
確認できている参加ベンダー例:Nokia(クラウドネイティブCoreソフトウェア、2022年3月に最初のSymworldパートナーとして選定)、AirHop(RAN自動化xApps、2023年2月)、F5(クラウドネイティブSaaSセキュリティ)、Oracle(Policy and Charging、2023年7月)。Salesforceがこのマーケットプレイスの参加ベンダーであるという事実は確認できなかった。
| 2021年5月 | 楽天モバイルと富士通がOpen RANソリューションの共同開発およびグローバル展開に向けたMOU(覚書)を締結。富士通のO-RAN準拠無線装置をRCPに統合 |
| 2025年3月 | 楽天モバイルが5G Sub6基地局において富士通製Open RAN対応無線装置を採用し、エリア拡大を加速すると発表 |
| NECとの関係 | 楽天モバイルは同時期にNECともOpen RAN普及に向けた連携を発表。NECは自社子会社Netcrackerを通じて楽天モバイルのBSS/OSSも担っており、Open RAN(無線設備)とBSS/OSS(業務支援)の両輪でNECが楽天と深い関係を持つ構図がある |
Netcracker製BSS/OSSの中核(Billing・課金計算・Mediation)は維持したまま、法人営業のCPQ・オンライン契約(Digital Commerce)・コンタクトセンターのAI化(Agentforce)といった顧客接点部分だけをCommunications Cloudに置き換えるという構成は、前章のアーキテクチャ上は技術的に成立する。
楽天モバイルは法人契約数を拡大中(2024年時点で1万社超)であり、法人向け見積・契約プロセスの効率化ニーズは高いと推測される。この領域はNetcrackerよりもCPQ/コマースに強いCommunications Cloudが得意とする範囲と重なる。
楽天モバイルはコスト構造上、グループ内リソース(楽天コネクト Storm等)の内製活用を重視する傾向が強く、外部SaaSへの依存を避ける経営判断も十分あり得る。また現行BSS/OSSの刷新は稼働中の通信インフラに直結するため、リスクを取ってまで置き換える動機が乏しい可能性もある。
楽天モバイルは通信網以外にも法人向けサービス(Rakuten最強プラン ビジネス、IoT、コンタクトセンター外販等)を展開している(本サイト別記事「楽天モバイル 非通信事業システム構成図」参照)。これらは通信網本体のBSSほど刷新リスクが高くないため、Communications CloudやSalesforce製品群がまず非通信の法人サービス領域から入る可能性のほうが、通信網BSS本体を直接置き換えるより現実的と考えられる。
楽天シンフォニーはSymworld Marketplaceという「BSS/OSSコンポーネントを組み込めるオープンな場」を自ら運営している。Salesforceにとっての商機は「楽天モバイル自身のBSSを置き換える」ことよりも、「楽天シンフォニーがRCP/Symworldを販売している海外キャリア(1&1ドイツ等)に対し、Symworld Marketplace経由でCommunications Cloudをデジタルフロント層として提供する」方が、Nokia・AirHop・F5・Oracleの前例を踏まえると現実的な入口になり得る。
これは楽天モバイル個社の商談というより、楽天シンフォニーとのパートナーシップ・エコシステム参加の話であり、商談のカウンターパートも営業部門ではなくアライアンス/プロダクト部門になる点に注意。
| 発表時期 | 2024年11月 |
| 導入企業 | ビッグローブ株式会社(BIGLOBE) — 大手ISP・MVNO事業者 |
| 位置づけ | Salesforce Communications Cloudの国内初導入事例としてセールスフォース・ジャパンがプレスリリースを発表 |
| 導入目的 | 販売管理システムの刷新(既存の販売管理システムをCommunications Cloudへ移行) |
| 比較項目 | Salesforce Communications Cloud | Amdocs / Netcracker(従来型BSS) |
|---|---|---|
| 出自 | CRMベンダー(Salesforce)+Vlocity買収 | 通信専業ベンダーとして数十年の実績 |
| 得意領域 | CRM・CPQ・受注管理・コマース・カスタマーサービス | Billing(課金計算)を含むフルスタックBSS/OSS |
| Billing機能 | 限定的(既存Billingとの連携が前提) | 中核機能として最重要視 |
| 導入アプローチ | 既存システムへの「重ね置き」型が主流 | フルスタック刷新・段階移行の両方あり |
| 開発方式 | ローコード設定(Configuration中心) | プラットフォーム提供+SI導入・カスタマイズ |
| AI機能 | Agentforce(生成AIエージェント)を全面統合 | Amdocs amAIz等、各社独自のAI基盤を展開中 |
| 日本市場の実績 | BIGLOBE(2024年〜、国内初) | Netcracker=楽天モバイル、Amdocs=J:COM等、実績豊富 |
| レビュー評価 | Gartner Peer Insights: 4.3(該当カテゴリ) | NEC(Netcracker): 4.0(同カテゴリ) |
痛み「楽天モバイルの法人営業チャネルで見積〜契約〜開通依頼が手作業・複数システムをまたいでおり、契約数拡大(1万社超)にオペレーションが追いついていない可能性がある」
提案Communications CloudのCPQ/Order ManagementをNetcracker等の既存Billingと連携させ、法人向け見積〜契約プロセスをセルフサービス化・自動化する。既存バックエンドは維持したまま「表側」だけを刷新するため、リスクを抑えた提案が可能。
痛み「楽天コネクト Storm運用の中で、問い合わせ量の増加・深夜対応・一次対応の効率化に課題がある」
提案StormとAgentforce for Communicationsを連携させ、注文状況照会・請求トラブルなど定型的な問い合わせをAIエージェントが一次対応。有人対応との協働モデルで対応工数を削減する。
痛み「Billing刷新はリスクが高く着手できないが、顧客接点の改善は急ぎたい」という声がある場合
提案「Netcrackerを置き換える提案」ではなく「TM Forum Open APIで疎結合に共存させる提案」として位置づけることで、既存ベンダー・運用チームとの摩擦を避けながら合意形成しやすくなる。
痛み「通信網本体のBSSは刷新リスクが高く商談化しにくい」
提案IoT・コンタクトセンター外販・Symworld外販等、非通信の法人サービス領域のCRM/受注管理から先行導入し、実績を作った上で通信網BSS本体への提案につなげる段階的アプローチ。
痛み「楽天モバイル本体のBSS商談は難易度が高いが、楽天シンフォニーが世界のキャリアに展開しているRCP/Symworldの拡販に自社製品を乗せたい」
提案Nokia・AirHop・F5・Oracleがそうしたように、Communications CloudをSymworld Marketplaceの認定パートナー製品として組み込む提案を楽天シンフォニーのアライアンス部門に持ち込む。富士通は既にOpen RANレイヤーで楽天モバイル・楽天シンフォニーと協業実績があり、この関係を糸口にアライアンス部門への紹介を依頼することも一案。
- Communications Cloud | セールスフォース・ジャパン
- 通信業界向けのカスタマーサービスソフトウェア | セールスフォース・ジャパン
- Communications Cloud TM Forum API | Salesforce Developers
- Explore TM Forum Open APIs with Salesforce Communications Cloud | Trailhead
- セールスフォース・ドットコム、Vlocityの買収完了
- セールスフォース・ドットコム、Vlocity社の買収に関し最終合意
- ビッグローブが販売管理システム刷新のためにSalesforce Communications Cloudを導入(PR TIMES)
- NEC (Netcracker) vs Salesforce | Gartner Peer Insights
- クラウドコンタクトセンターサービス | 楽天コネクト Storm
- 楽天コネクト StormのSalesforce連携(FAQ)
- 富士通のSalesforceサポートデスク対応にAgentforceを採用 | Salesforce
- Rakuten Symphony JP公式サイト
- Rakuten Mobile Selects Oracle Policy and Charging on Rakuten Symphony Symcloud | Rakuten Symphony Newsroom
- Nokia first Symworld partner to be selected by Rakuten Symphony | Nokia
- AirHop becomes the first vendor selected by Rakuten Symphony to launch xApps on the Symworld marketplace | Business Wire
- Rakuten Symphony and F5 Accelerate Supply Chain Diversity With Availability of F5 Cloud-Native Solutions in Symworld | F5
- 楽天モバイルと富士通、Open RANソリューションの共同開発およびグローバル展開に向けて連携(楽天モバイル プレスリリース)
- 楽天モバイル、5G Sub6の基地局においてOpen RAN対応の富士通製無線装置を採用しエリア拡大を加速(楽天モバイル プレスリリース)
- 本サイト内関連記事:「BSS / OSS × Amdocs 完全解説」「Salesforce×楽天グループ 取引実績とtoBeマーケティングの関係」「RCP / 楽天シンフォニー / OSS / Cloud 解説」