数字で把握することが目的
IT予算は売上高の何%かを業界平均と比較することで「この会社はIT投資に積極的か?」を判断できる。財務状況が厳しい会社への大型提案は失注リスクが高い。
売上は伸びているのに利益率が下がっているなら「原価・人件費の効率化ニーズ」がある。在庫が膨らんでいるなら「サプライチェーン最適化」の商機かもしれない。
「御社の今期の営業利益率は○%で、同業他社と比べると△△が課題に見えます」と言える営業は、単なる製品説明に終わらず、戦略的パートナーとして認識される。
「なぜそんな大きな投資を今期中に?」という問いへの答えが、財務諸表に隠れていることが多い。決算期・IT投資サイクル・セグメント別の収益性を読めると、タイミングよく提案を届けられる。
| 資料名 | 頻度・時期 | 内容・特徴 | 営業での活用度 |
|---|---|---|---|
| 決算短信 | 年1回(通期) 四半期ごとに速報 |
最速で公開される業績サマリー。売上・利益・予想が1枚で把握できる。財務諸表の本体もここに含まれる | ★★★ 最重要 |
| 有価証券報告書 (有報) |
年1回 (決算後3ヶ月以内) |
最も詳細な開示書類。セグメント情報・リスク情報・役員報酬・関連会社一覧まで記載。数百ページに及ぶことも | ★★☆ 深掘り用 |
| 決算説明資料 (IRデッキ) |
年1〜4回 | 経営陣が投資家向けに作ったプレゼン資料。図解が多く読みやすい。中期経営計画もここに含まれることが多い | ★★★ 必読 |
| 中期経営計画 (中計) |
3〜5年ごと | 今後の投資・注力領域が明記される。「DX推進に○○億円投資」などIT商機のヒントが満載 | ★★★ 提案の根拠 |
| 統合報告書 (アニュアルレポート) |
年1回 | ESG・非財務情報を含む総合的な企業レポート。人的資本・IT投資方針も記載されることが多い | ★☆☆ 参考程度 |
| 四半期報告書 (四半報) |
年3回 | 直近3ヶ月・6ヶ月・9ヶ月の業績。トレンドの変化を追うのに使う | ★★☆ トレンド把握 |
サイト
(金融庁)
開示資料
(無料)
バリューサーチ
初めて企業の「健康診断書」になる
ある時点(決算日)のスナップショット。左側に資産、右側に負債と純資産が並ぶ。
一定期間(1年や四半期)の収益・費用・利益の流れを示す。
利益が出ていても実はお金がない(黒字倒産)を防ぐための実態把握。
期初の財産状態
当期の儲け・損
現金の動き
期末の財産状態
PLの当期純利益 → BSの純資産(利益剰余金)に加算。CFの期末現金残高 → BSの現金及び預金に一致。3つは連動している。
「お金をどう使っているか」
「そのお金をどこから調達したか」
左合計(資産) = 右合計(負債 + 純資産) ← 必ず一致する(だから「貸借対照表」)
| 項目 | 注目ポイント |
|---|---|
| 現金・預金 | 潤沢ならIT投資に積極的になりやすい |
| のれん | M&Aで拡大中。統合IT基盤の商機あり |
| ソフトウェア (無形固定資産) |
自社開発の規模感がわかる。レガシー更新ニーズ把握 |
| 有利子負債 (借入金・社債) |
多いと返済が優先され投資が絞られる可能性 |
| 利益剰余金 | 蓄積が多い=過去の好業績。大型投資の原資 |
借入金(負債)が多くて膨らんでいる場合もある。純資産(自己資本)の比率が重要。
M&Aで多くを投じたが業績が思わしくない場合、のれん償却・減損で利益が急減するリスクがある。IT統合が急務になることも。
売れ残りか、販売見込みで先行仕入れか。前者なら業績不振の予兆。後者なら業容拡大のチャンス。
| 利益の種類 | 何を意味するか |
|---|---|
| ① 売上総利益(粗利) | 製品・サービス自体の競争力。粗利率が高い = 価格優位性がある |
| ② 営業利益 | 本業の稼ぐ力。IT投資や人件費などの販管費を差し引いた後の実力値 |
| ③ 経常利益 | 財務活動を含む通常の稼ぐ力。借入が多い会社は利息で圧迫される |
| ⑤ 当期純利益 | 最終的な利益。ただし特別損失などで歪む場合があるため注意 |
→ 原価・人件費が増加している可能性。DX・自動化・クラウド移行による効率化提案の切り口になる。
→ 人員増加・広告費増などが考えられる。CRM・HRシステム・MAツールの商機。
→ 過去のIT投資(のれんや自社システム)が機能していない可能性。再構築の提案が響く。
(Operating Cash Flow)
本業でどれだけ現金を生み出したか。
+ プラスが基本
これがマイナスの会社は、本業でお金を使っている=危険信号。
主な内訳:当期純利益 + 減価償却費 ± 売掛金増減 ± 在庫増減など
(Investing Cash Flow)
設備投資・M&A・有価証券購入などへの支出。
▲ マイナスが普通
成長投資をしているから。大きいマイナス = 積極投資中。
逆にプラスは資産売却が多い(縮小局面)。
注目点:ソフトウェア・システム投資額が見える
(Financing Cash Flow)
借入・返済・配当・増資など。
+ プラス = 借入や増資で資金調達中
▲ マイナス = 借入返済や株主還元中
成熟した優良企業はマイナスが多い(配当・自社株買い)
| 営業CF | 投資CF | 財務CF | 読み取れる状態 | IT営業への示唆 |
|---|---|---|---|---|
| + | ▲ | ▲ | 優良企業(本業で稼ぎ、投資し、借金返済・配当) | IT予算も潤沢。長期的パートナーとして狙う |
| + | ▲ | + | 成長投資フェーズ(借入で積極投資) | 新規システム・拡張投資の商機大。スピード感が必要 |
| ▲ | + | + | 危険信号(本業低迷、資産売却・借入で凌いでいる) | 大型投資は通りにくい。ROIを明確にした小さい提案から |
| + | + | ▲ | 縮小局面(資産売却しながら借金返済) | コスト削減・統廃合支援の提案が刺さりやすい |
これが当社に支払われているIT費用の参考値になる。前期比で増えていれば「DX投資加速」、減っていれば「IT予算の見直し中」のシグナル。
| セグメント | 売上高 | 営業利益 | 利益率 | 前年比 | IT営業の読み方 |
|---|---|---|---|---|---|
| A事業(主力) | 500億 | 80億 | 16% | +8% | 好調。投資意欲高く、新機能・拡張の提案が刺さる |
| B事業(新規) | 80億 | ▲10億 | ▲12% | 初年度 | 先行投資中。ITインフラ・スピード重視の提案を |
| C事業(成熟) | 200億 | 10億 | 5% | ▲3% | 利益率低下中。コスト削減・自動化提案が響く |
| D事業(海外) | 150億 | 25億 | 17% | +22% | 急成長。グローバル対応ITシステムの商機 |
- どのセグメントが全体の利益を支えているか(稼ぎ頭)
- 赤字セグメントがある場合、縮小or投資中か判断する
- 急成長セグメントは IT投資余力・ニーズが高い
- 利益率が落ちているセグメントに刺さる課題を探す
- 海外セグメントが成長中 → グローバルIT対応の商機
と聞くことで、その人が属するセグメントの業績・課題を事前に読み込み、ピンポイントの課題仮説を持って商談に臨める。
| 財務上のサイン | 刺さる提案カテゴリ |
|---|---|
| 営業利益率の低下 | RPA・AI自動化・クラウド移行 |
| SG&A(販管費)の増加 | CRM・MA・ERP・HRTech |
| 在庫の増加・回転悪化 | WMS・SCM・需要予測AI |
| 売掛金の増加 | 電子請求・AR自動化 |
| のれんの増加(M&A後) | PMI・IT統合・ERP一本化 |
| 海外セグメントの急成長 | グローバルERP・多言語対応 |
| FCFが潤沢(現金余剰) | 大型ERP・クラウドインフラ |
| 投資CFのIT支出増加 | 競合調査・追加機能提案 |
自己資本比率が低く、FCFがマイナスの会社へ数億円の提案をしても、予算確保できずに時間を無駄にするだけ。まず小さな価値実証から始める。
「利益率が低いですね」はNGワード。「御社の場合、○○の効率化で利益率改善の余地があると仮説を持っています」と課題として提示する。
財務諸表から仮説を作り、「実際のところ、どうですか?」と顧客に話してもらうことが目的。数字の正しさより、顧客の言葉を引き出す問いの質が重要。
- 直近の決算短信(または決算説明資料)を入手した
- 売上高・営業利益・前年比を把握した
- 今期の業績予想(上方/下方修正の有無)を確認した
- 主要セグメントの売上・利益を確認した
- どのセグメントが成長/低迷しているか整理した
- 中期経営計画の重点投資領域を確認した
- 自己資本比率(純資産÷総資産)を計算した
- フリーキャッシュフローがプラスか確認した
- 有利子負債の規模を把握した
- 現金・預金残高(IT投資の余力)を確認した
- 特別損失(減損・リストラ)の有無を確認した
- 財務データから課題仮説を最低1つ立てた
- その仮説を裏付ける数値(指標)を選んだ
- 課題仮説と自社製品・サービスを接続した
- 「なぜ今期か」という投資タイミングの根拠を作った
- 担当者がどのセグメント/事業部に属するか確認
- 財務の課題仮説を「仮説として」顧客に提示した
- IT予算サイクル・決算期を確認した
- 現場の肌感覚と財務数値のズレを確認した
| 用語 | 英語 | 意味・IT営業での使い方 |
|---|---|---|
| ▶ 損益計算書(PL) | ||
| 売上高 | Revenue / Net Sales | 事業活動の総収入。ここが伸びているか縮んでいるかが最初のチェックポイント |
| 売上原価 | Cost of Goods Sold (COGS) | 製品を作る・仕入れるための直接コスト |
| 販売費及び一般管理費 | SG&A | 人件費・広告費・IT費用など間接コスト。ここが大きければDX提案で削減余地あり |
| のれん償却費 | Amortization of Goodwill | M&A時に払ったプレミアムを費用化したもの。IT統合遅延で業績を圧迫することも |
| EBITDA 読み:イービットディーエー | EBITDA | Earnings Before Interest, Taxes, Depreciation and Amortization。実態的な稼ぐ力の指標 |
| ▶ 貸借対照表(BS) | ||
| 流動資産 | Current Assets | 1年以内に現金化できる資産。現金・売掛金・在庫など |
| 固定資産 | Non-current Assets | 1年超使う資産。建物・設備・ソフトウェア・のれんなど |
| のれん | Goodwill | M&A時に純資産を超えて払った超過対価。大きいほどM&A依存で統合IT案件の可能性 |
| 有利子負債 | Interest-bearing Debt | 借入金・社債など利息が発生する負債の合計 |
| 利益剰余金 | Retained Earnings | 過去の利益の蓄積。大きいほど財務的な余裕があり、IT投資の原資になりうる |
| ▶ キャッシュフロー(CF) | ||
| フリーキャッシュフロー | Free Cash Flow (FCF) | 営業CF + 投資CF。これがプラスなら「自由に使えるお金」が増えている |
| CAPEX | Capital Expenditure | 設備・IT投資などの固定資産取得支出。IT部門の投資規模を示す |
| OPEX | Operating Expenditure | 維持・運用コスト。クラウド移行はCAPEXをOPEXに転換する提案でもある |
| ▶ IR関連 | ||
| 決算短信 | Earnings Release | 決算発表時に最初に公開される速報資料 |
| 有価証券報告書(有報) | Annual Securities Report | 金融庁EDINETで閲覧可能な最詳細の開示資料 |
| 中期経営計画(中計) | Mid-term Business Plan | 3〜5年の戦略・投資計画。IT商機のロードマップが読める |
| コンセンサス | Consensus Estimate | アナリスト予想の平均。実績がこれを上回れば株価上昇 → 投資意欲高まる |